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喪服のランデヴー


書斎の本棚(小)。

「喪服のランデヴー」コーネル・ウールリッチ ハヤカワミステリ文庫 昭和51年4月30日 初版 カバ欠にて値段不明

古書だったような気がするが、その痕跡が残っていないので、新刊だったのかもしれない。
私の大好きな、ウールリッチ(=ウィリアム・アイリッシュ)の作品である。

「喪服」は、最初の一節から良い。
最初の一文で、もうこっちの心を捉えに来るところは、「幻の女」みたいだと思う。

しかし、「幻」の主人公が苦く重たい気持ちを抱えていたのに比べ、「喪服」の主人公:ジョニーは超ハッピーだ。
タイトルは「喪服」なのに、最初のページを開いたら、そこは幸せにしてラブラブな世界なのである。ここから、あっという間に真っ黒な喪服的物語になだれ込んでしまうのが、恐ろしいほどに気持ちいい。

冒頭の「ラブラブ」は、恋人に会いに行く若者の幸せな様子の描写なのだが、ここに読者を付き合わせるところが、ウールリッチのずるいやり方だなーと思う。

こんな幸せを見せられて、それをぶっ潰されるところに立ち会ったなら、読者は主人公が復讐の鬼になり、連続殺人を重ねていくのを許してしまう。一緒に、復讐物語の完成に向かって歩き出してしまう。
復讐のために、何の罪も無い人が巻き添えを食うとしても、ジョニー君、復讐をやめようよなんて、読者は一っつも思わない。

さらに作者がずるいことには、復讐劇の中で殺される人たちも、読者の感情移入を誘うように描かれていくのだ。殺されていい気味なんて、絶対に思えないのだ。

殺すほうと、殺されるほうと、両方の気持ちに読者は振り回される。
振り回されるのは読者だけではない。最後に、復讐の殺人鬼を追い詰めた警察の中にも、主人公の哀れさに、
「逮捕の方法が残酷すぎる」
と思う者が出る始末なのだ。

ああーかわいそうに、ジョニー。ドロシーは君を待っているぞ。待っているとも。
君が待っていたなら、彼女も待っていたはずだ。
君が八っつ、彼女が七つのときから、二人はずっとそれを繰り返してきたのだから。
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