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2008-09-22 (Mon) 00:58

ずっとお城で暮らしてる

書斎の本棚(大)、下ブロック

「ずっとお城で暮らしてる」シャーリー・ジャクスン 山下義之訳 学研 1994年12月20日 初版 1000円

新宿紀伊国屋で購入。
紀伊国屋の新刊コーナーで平積みされている本書と、パッと目が合い、その瞬間に、私は押し頂くようにして、手に取った。
小学生のときから、待ちに待ち焦がれていた出版であった。
本書の内容は、私が永い間勝手に推理推測していたテイストとは、ちょっと違っていたが、むしろ「ジャクスンらしい方向」に違っていたので、待った甲斐は十分にあったといえるだろう。

いやー、ジャクスンは怖いなー。冒頭から、人間の悪意というものの凶暴性が、ひしひしと突き刺さってくる。
この物語の主人公は、メアリー・キャサリン・ブラックウッド(通称メリキャット)という名の少女。
メリキャットは、姉のコニーと、伯父さんと三人暮らし。
ブラックウッド家は、土地の名家で、以前は大家族で暮らしていたが、ある日夕食のデザートに毒物が混入され、三人だけが生き残ったのだ。警察は、コニーを犯人と疑い、彼女を逮捕したのだが、結局コニーは証拠不十分で釈放された。
しかし、世間では、「コニーが犯人なんだ」と信じられており、村人たちは、はやし歌まで作ってコニーに「人殺し」と指を指す。心優しく、繊細なコニーは、屋敷に引き篭もり、一歩も敷地の外に出ない生活を送っている。コニーだけでなく、生き残りの三人全員が世捨て人みたいになって生活しているのだが、財産のある家なので、生活には全く困らない。それがまた、村人の反感を招く、という悪循環も出来上がっている。

村人から見ると、引き篭もった三人は、「人殺しと、変わり者二人で隠れている。悲惨だなあ」としか見えない。しかし、ブラックウッド家の生活は、引き篭もりの静謐と平安に満ちていて、それなりに安定しているのである。姉妹は、「幸せだ」という会話さえ交わすのだ。
その幸せを脅かす手が、ある日外から屋敷にやってくる。コニーを、もう一度世間に呼び戻そうとするもの(善意&財産目当て)が現れるのだ。その侵入者により、危うい安定を保っていた引き篭もりの楽園に、嵐がやってくる。
嵐が去ったその後に何が残るのか、ここでは具体的に書かないが、最後に読者が見るものは、美しいコニーの笑顔である。


ところで、ブラックウッドの毒殺事件は、世間的には未解決事件として終わるのだが、読者には、物語の終盤で、真犯人が示される。
しかし、ジャクスンの読者ならば、真犯人の名前など、最初から空のおてんとう様と同じくらい明白に分かる。(特にジャクスンのファンでなくとも、読書家であれば、薄々分かるだろう)真犯人が、誰を生き残らせたかったのかまで分かる。
三人生き残ったのは、想定外だったのだ。本当は、犯人は「二人が残れば十分」だったのだろう。

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最終更新日 : 2018-10-01

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